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那覇地方裁判所 平成8年(わ)28号 判決

主文

被告人を禁錮二年に処する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、平成八年一月七日午後零時五七分ころ、業務として普通乗用自動車を運転し、沖縄県中頭郡北谷町字北前二四〇番地先道路(最高速度が時速六〇キロメートルと指定されている。)を嘉手納町方面から宜野湾市方面に向け進行中、第二通行帯から第一通行帯に進路を変更しようとしていた。このような場合、速度を調節し、ハンドルを的確に操作して進路を変更すべき業務上の注意事務がある。しかし、被告人は、これを怠り、時速八〇キロメートル以上の高速度のままハンドルを急に切る過失を犯した。その結果、被告人は、自車を左前方に滑走させて歩道上に進入させ、歩道上を歩行中のA子、B子及びC子に衝突させ、別紙一覧表記載のとおり、A子ほか二名を死亡させた。

(証拠)《略》

(法令の適用)

一1  罰 条 刑法二一一条前段

2  科刑上一罪の処理 刑法五四条一項前段、一〇条(犯情の最も重いA子へに対する罪の刑で処断)

3  刑種の選択 禁錮刑を選択

二  訴訟費用の処理 刑事訴訟法一八一条一項ただし書

(量刑の理由)

一  本件は、制限速度を二〇キロメートル以上超える時速八〇キロメートル以上の速度で車線変更しようとした被告人がハンドルを急に切ったため、車両が横滑りして縁石を乗り上げて歩道上に進入し、歩行中の母子三名を跳ね飛ばして死亡させたという事案である。本件事故の直接の要因となったのは、被告人が、第二車線から第一車線へと制限速度を超える高速度で車線変更をしようとした際、自車が横滑りしたことに狼狽し、これを立て直そうと急ハンドルを切ったことであるが、被告人は、事故直前にさしたる必要もないのに第一車線から第三車線へと車線変更し、さらに、本件事故現場の先を左折するため、高速度のまま第三車線から再度第一車線へと車線変更する際、自車が横滑りしたものであって、このような被告人の運転事情に照らすと、被告人の運転行為には事故発生の危険が内在していたものといえ、その過失は重大である。

次に、生じた結果についてみると、被害者らは約三〇メートルも跳ね飛ばされており、事故の衝撃はすさまじいものであったと思われ、何の落ち度もないのに、一瞬のうちのできごとによって、命を失った被害者らの無念さは察するに余りある。加えて、一度に家族の三名を失った遺族の悲しみは測り知れず、後記のとおり、自賠責保険から損害金の一部の支払を受けた後も、被告人に対して厳重な処罰を希望している。また、被告人は、人身被害の補償について任意保険に加入していないことなどから、現在のところ、示談成立の見込みはない。

二  以上の諸事情に照らすと、被告人の刑事責任は重大というほかなく、自賠責保険から遺族に対し損害金の一部として合計約八二〇〇万円が支払われていること、被告人は、公判廷において被害者及び遺族に対し真摯に謝罪し、本件を深く反省していること、被告人は二〇歳になったばかりで、将来のある者であることなど被告人に有利な事情を十分考慮してみても、主文に掲げた程度の実刑は避けられないと判断した。

(検察官野村雅之、私選弁護人松永光信、各出席)

(求刑-禁錮三年)

別紙 一覧表

番号、氏名 年齢(当時)、死因、死亡年月日・場所

1、A子、三六年、脳挫傷、平成八年一月七日午後零時五七分ころ、沖縄県中頭郡北谷町字北前二四〇番地先歩道

2、B子、一〇年、右同、平成八年一月七日午後二時七分ころ、同県沖縄市照屋三丁目二〇番一号中部徳州会病院

3、C子、一年、右同、平成八年一月七日午後二時一〇分ころ、同県中頭郡北谷町桑江在沖縄米海兵隊キャンプレスター内米国海軍病院

(裁判官 釜井景介)

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